原毛の種類は、メリノを代表とする羊(世界でおよそ300種)、カシミヤやモヘアのような山羊、キャメル(ラクダ)、ラクダ類に属するアルパカ、アンゴラ(ウサギ)などが良く知られています。それらは、繊維の太さ、長さ、色、光沢、縮れ、弾力性、膨らみ、柔らかさなどが異なります。
羊の毛には縮れがありますが、その縮れ具合も種類によって異なります。縮れの波打ち具合、縮れた繊維どうしの隙間に含まれる空気の量の違いなどにより、紡いだ糸の弾力性や膨らみも変わるのです。
ピレネー山脈の標高1000〜2000m辺りに生息するピレネーシープは、厳しい寒さに耐えられるよう、外側の毛は太く、内側の毛はふかふかのダウン状です。
イギリスの海辺で苔を食べて育つ羊もいます。海水に濡れても体温を奪われぬよう、やはり、外側の毛は太く、内側の毛はふかふかのダウン状です。
羊以外の原毛であるカシミヤ、アルパカ、アンゴラなどは光沢があり高級素材として知られています。キャメルは、その繊細な毛質により軽さと暖かさで、この上ない贅沢な素材です。
同じ素材でも、紡ぐ前の準備の仕方や紡ぎ方によって、全く違った糸にもなります。
マフラーやネックウォーマーの様な首回りに使うアイテムには、チクチクしなくて、汗でフェルト化し難い素材を選びます。靴下には摩耗して穴があきにくい様、太めで摩耗しにくい素材を選び、尚且つ摩耗し難い紡ぎ方をします。
Shetland(シェットランド)
イギリス北東海上沖のシェットランド島に生息する羊です。厳しい寒さの中、岩に生えた苔や草木を食べて育ちます。繊維は、つや、弾力性、柔らかさに優れ、繊維の太さや長さも紡ぎ易いのが特徴です。
ナチュラルカラーの種類が多いのも、紡ぐ楽しみが拡がり嬉しく思います。
同種でも、別の地で飼育された羊の毛質は、柔らかさが失われてしまい、厳密には、シェットランド島で育った羊毛とは区別されています。羊の野生的要素を残しており、春には自然脱毛します。近年は他種との交配が進み、自然脱毛する種が減少。貴重な原種で、毛質が安定しています。
Corridale(コリデール)
コリデールは、私の大好きな羊さんです。メリノとリンカーンの交配種で、両方の良さを兼ね備えた毛質の持主。
メリノは、羊の中で、繊維が最も細い種で、乾燥に強く粗食に耐え得る強靭な体質です。リンカーンは、繊維が太くて光沢があり、雨や湿気に強い羊です。
コリデールの毛質は、その両者のいいとこ取り。手触りも柔らかく、光沢もあり、繊維の太さや長さも、とても扱い易く、他種とのブレンドにも幅広く使えます。様々な種類の糸質に紡ぎ分けることが可能な品種で、私の心強い相棒です。
ニュージーランド南東やオーストラリア東海岸に生息し、厳しい気候の山岳地帯から、雨の多い地域に至るまで、広域で育ち易い品種です。
食用肉としても美味しく、理想的な毛肉兼用種です。ちょっと余談になりますが、雌の羊さんは、繁殖のため長く飼育されるのですが、雄は繁殖用として優秀なものが選別して残され、多くは食肉用となるのだそうです。う〜ん…。厳しい現実ですぅ。
Merino(メリノ)
メリノは、羊の中で、繊維が最も細い種で、乾燥に強く粗食に耐え得る強靭な体質です。
工業用としては最重要視されている羊毛種です。繊維が柔らかく肌触りが良いため、チクチクせず首回りのアイテムにも向きますが、汗をかくとフェルト化し易いという特徴があります。そこで私は、その欠点を補うため、他種の原毛とブレンドしたり、肌と糸の接触面を減し問題を回避するため、糸の形状を変えるなどの工夫をしています。
メリノは、現在、世界各国で飼育されていますが、12C末にスペインに移住した北アフリカのムーア人により改良された種と言われています。1765年の輸出解禁後、世界各地で飼育されるようになり、オーストラリアが世界一の産毛量を誇っています。
Blue-face(ブルーフェイス)
その名の通り、青白い顔をしています。頭部には毛がなく、スキンヘッドにピント立った耳と長い足が凛々しい羊です。
ブルーフェイスは、繊維が長く光沢があり、ぬめりと弾力性があり肌触りの良い毛質です。その光沢と肌触りが大好きで、極細に紡いでニットにすると、贅沢な抱擁に幸せを感じます。
イギリス北部の厳しい環境に耐えられるよう改良された羊です。
Cheviot(チェビオット)
チェビオットは、弾力性があり、ピレネーシープとMIXすると、ピレネーシープの荒々しさをカバーして手触り感が変わるので、この両者のコンビネーションをとても気に入っています。
特にセーターの場合、軽くて暖かく仕上げたい時にチェビオットをMIXすると見た目の太さよりずっと軽く仕上がるので、とっても頼もしい助っ人です。
Pyrenees sheep(ピレネーシープ)
ピレネーシープは、厳寒の地に生息するため、外側の毛は太くて荒々しいのですが、内側の毛はふかふかのダウン状。なかなか入手困難なため、見つけた時には、つい買ってしまいます。
外側の毛は太くてチクチクするので、ラグなどには丈夫で向いていますが、ピレネーシープ単独では衣料用としては不向きです。しかしながら、その荒々しさはとても魅力的で、アウトドア派のアイテムに生かして見たいと思いました。
首回りのアイテムであるマフラーやネックウォーマーには不向きですが、帽子やセーターなら、他種とのブレンドにより、風合いを改善しつつも、ピレネーシープの良さである荒々しさを生かせます。手紡ぎだからこそ可能なブレンドの醍醐味ではないでしょうか?
Romney(ロムニー)
ロムニーは、イギリスの沼沢地原産種。現在はニュージーランドが世界一の産毛国です。頭も足も毛に覆われています。毛質は光沢と弾力性があり、シャリ感のある糸になります。成長が早く毛肉兼用種。
手紡ぎ初心者でも扱い易い毛質で、練習用に適しています。繊維の供給量と撚りのスピードの関係を指先が覚えるまでは、繊維が滑り過ぎず安心して練習に集中できる毛質です。
ロムニーから品種改良されたペレンデールは、ロムニーの弾力性に柔らかな肌触りと光沢が更に繊細になり、紡いでいる時にとても心地よい感触です。
その他の原毛
Alpaca(アルパカ)
アルパカ(ラクダ科)は、南米大陸のペルー、アルゼンチン北部などのアンデス高原に生息。
繊維はとても細くて柔らかく、光沢があります。ナチュラルカラーの種類が豊富なのが嬉しいです。羊毛に比べ、あまり伸縮性のない糸になりますが、風合いが良く、軽くて暖かく、丈夫で毛玉にならないのが特徴です。