原毛から糸になるまで

原毛から糸になるまでの工程は、手間と時間が掛かりますが、原毛の特徴を知り、その良さを生かすためにはとても大切な仕事です。
まず、汚れや余分な脂分を落とすため、洗って乾燥。藁などのゴミを取除き、それからやっと糸紡ぎの工程に進めます。
紡ぎ方によって、紡ぐ前の繊維の準備の仕方が異なり、この作業を丁寧にすることで、同じ素材を使っても、全く違う糸になります。手加減ひとつで、膨らみがあり軽くて暖かな仕上がりになったり、縫い糸としても耐え得るような糸にもなるのが手紡ぎ糸の魅力です。

マフラーやネックウォーマーの様な首回りに使うアイテムには、チクチクしなくて、汗でフェルト化し難い素材を、靴下には穴があきにくい様、太めで摩耗しにくい素材を選び、尚且つ摩耗し難い紡ぎ方をします。
手紡ぎ糸は手加減により、甘撚り糸から強撚糸まで撚りのコントロールの微調整が可能で、少量紡ぐこともできるところが市販糸との大きな違いです。

スラブ糸は、細い部分と太い部分が交互に繰り返され、太さによって繊維の供給量と適切な撚り回数が異なるため、太さが均一な糸を紡ぐより時間が掛かりますが、その豊かな表情はとても魅力的です。

糸で見て「いい感じ」と思っても、その後、その糸を使って、実際作品にして初めて、狙い通りの糸になったかどうかが確認できます。作品の面積により、色の表れ方が違うので、そのことを考慮して、始めから糸のデザインをする必要があります。
常に試作と記録が大切な作業で、その積み重ねが、オリジナル糸を生み出す原点になっています。

ナチュラルカラーは、白、ベージュ系から茶色まで、淡グレーからチャコールグレーまでと種類が豊富で、魅力的です。これらのMIXで、色のバリエーションは限りなく拡がります。染色した原毛でオリジナルカラーの糸にするのも楽しい作業です。

市販糸は、機械にダメージを与えぬよう、原毛の脂分含有量が決められていますが、手紡ぎ糸の場合、脂分を適度に残すことで、ぬめりと光沢のある防寒、防水性の高い糸とすることも可能です。アウトドアライフに、その良さを発揮するアイテムに向いています。フィッシャーマンズセーターは、まだ防水加工のジャケットがなかった頃、この様な脂分の多い糸で編まれ、漁師さん達にとって、防水と防寒性に優れた冬の必需品であったと聞きます。